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東京家庭裁判所八王子支部 昭和54年(家)1109号 審判 1979年5月16日

申立人 東京都○○児童相談所長

事件本人 A

未成年者 B

主文

事件本人Aの未成年者Bに対する親権を喪失させる。

理由

申立人は主文同旨の審判を求め、その理由として次のとおり述べた。

一、申立人は東京都○○児童相談所の所長であり、後記の理由により未成年者を児童福祉法第三三条により一時保護しているものである。未成年者は事件本人の二女で昭和五一年二月八日から事件本人の親権に服している。

二、事件本人は昭和五一年二月八日妻Cと裁判離婚し、同人等の間の長女D(昭和○年○月○日生)長男E(昭和○年○月○日生)次女未成年者B(昭和〇年○月○日生)の三児の親権者に事件本人が指定され、離婚後事件本人は同上三児と共に生活していたが、前記長女Dは中学二年の時事件本人より性交を強要され、虐待されたため、児童福祉法二八条一項一号に基き国立○○○学院に措置入院となり、昭和四八年八月退院後母Cと共に行方不明となつた。

事件本人は病弱を理由に生業につかず、都営住宅に居住し生活保護法に基く生活扶助、医療扶助を受けているにもかかわらず、飲酒にふけり、未成年者の監護を怠るばかりでなく、未成年者が中学一年になると暴力により性交を強要し、未成年者を苦しめていたが、昭和五四年三月長男Eが大工見習として埼玉県内に住込みのため自宅を離れてからは未成年者に対する性交の強要が一層激しくなり、同月二七日、二八日、二九日の三日間自室において無理に未成年者を裸にし、性交をはかつたので未成年者は家出し、昭和五四年三月二九日通学している○○市立○○中学校の教諭Fに救助を求め、○○警察署の児童報告により東京都○○児童相談所に一時保護された。

未成年者は現に同児童相談所に保護されているが、事件本人は親権をたてにとり同相談所に引取り方強引に要求し、未成年者を脅かしている。

三、このような状態において未成年者を事件本人の親権に服せしめることは、未成年者の福祉を損い、又その監護、教育に悪影響を及ぼすことは明らかであり、又前記事件本人の行為は未成年者の監護を著しく怠り、同人を虐待するものであるから、児童福祉法第三三条の五に基き申立趣旨どおり宣告審判を求める。

よつて申立の理由を検討すると、当庁昭和五四年(家)第一〇四一号児童の福祉施設収容の承認審判事件の記録に編綴されている世帯主事件本人の住民票、筆頭者事件本人の戸籍謄本、警視庁○○警察署長○○○作成の児童通告書、Bの申述書、Fの供述書、生活保護受給証明書、東京都○○児童相談所作成の児童票、指導(調査)経過記録票、○○市立○○中学校校長○○○○作成の学校照会書、当庁家庭裁判所調査官○○○作成の調査報告書並びに当裁判所の○○○○に対する審問の結果を綜合すると、申立人の申立理由が認められる。

以上の事実によると未成年者の親権者である事件本人はその親権を濫用し、未成年者を虐待し、その福祉を著しく損つているものといわなければならないので、未成年者を事件本人の親権に服させることは不相当である。

よつて事件本人の親権を喪失させ、東京都知事に対し児童福祉法第二八条に基く適切な措置をとらせるため主文のとおり審判する。

(家事審判官 元吉麗子)

〔参考一〕 審判前の仮の処分(昭五四・四・二〇審判)

主文

東京家庭裁判所八王子支部昭和五四年(家)第一一〇九号親権喪失宣告申立事件の審判確定に至るまで、事件本人Aの未成年者Bに対する親権の行使を停止する。

申立人東京都○○児童相談所長を未成年者Bの親権代行者に選任する。

(家事審判官 元吉麗子)

〔参考二〕 抗告審(東京高 昭五四(ラ)六四四号 昭五四・七・六決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は、原審判を取消し、本件を東京家庭裁判所に差戻すとの裁判を求めたが、当裁判所も、抗告人(事件本人)の未成年者Bに対する親権を喪失させるのを相当と認めるものであつて、その理由は原審判理由(原審判書一枚目裏三行目から同三枚目表二行まで)と同一であるから、これを引用する。

よつて本件抗告は理由がないので主文のとおり決定する。

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